或明夜話 二 ●内部部外者

部屋の中には蝋燭が一本。部屋を照らす唯一の灯りは、さして広くもない部屋だというのに驚くほどに頼りない。
窓の外に広がる夜空のほうが、この何倍も明るいというのに。

「なあ、俺たちなんでこんなことしてるんだ?」
「なんで?いくら外が明るくても、きっと寒いよ」
「いやそうじゃなくて…」
立ち上がろうとした英利は、ひざのあたりまで上体を起こしたところで腰を木の板にぶつけた。ゴンとにぶい音が響いて二人を覆うコットンキルトの布が揺れた。体の上のほうで携帯ラジオの倒れる音がした。
「これ」
「ああそっち。このほうが雰囲気でるかなー、って」
「なんの」
「いや、まあ」
こたつから出した頭をかいて、昭夫はあははとのどかに笑う。横向きなのに落ちない眼鏡は一体どうなっているのか。そういえば英利は昭夫が眼鏡を外しているところを見たことがない気がした。そんなはずはないのだが、印象がない。
ラジオによると、雪害による停電のためこの街一帯は今停電状態だった。おかげでマンションの電子キーがまったく開かず、昭夫の家に遊びに来ていた英利は帰ることができないのだ。まあ、開いたところでこの大雪ではまともに路面電車も動いてはいないだろうが。
「うちオール電家だから、暖房が切れてるでしょ。今は大丈夫だけどあとから寒いし…」
「お前のなかで俺はどのくらいまでここにいることになってんだ?」
「え、帰るの?」
「……」
学区にある寮まで歩いて帰れんの?と言われているような気がしたが、意図はなくとも同義語であることは確かだった。学区はここから北側の山のちょっと行ったところにある。できないことはないが、あまり歩きたくはない距離だ。
立ち上がりついでにこたつから出かけていた英利は、無言でこたつのなかに戻った。