或明夜話 五 ●日出づる天にまた夜闇も満ちて

桜上市の西に連なる山の肌理には、街へ送るの電力の管理を一手に受ける送電所がひっそりとある。
業務上、休むという事柄には無縁とも思えるこの場所で、今日は職員一切が深い眠りの中に落ちていた。

「ヒトは夜には寝るものだ。そうだろう?」

職員の入社状況に異変はない。みな、普段どおりに職場を訪れ持ち場が変わっていることもない。
ただし、今日は日が落ちたあとに二人の客が来た。職員達は客が来る直前まで、何滞る事なく仕事をしていたので、その客人には気がつかなかった。


「……。」
「あー?わかってるって、言ってみただけだよ」
「……。」
「でもさ、加護もない刻にまで活動してるなんて、なんかヘンじゃない?」
「……。」
「そうなんだよね…。昔はそうでもなかったのに。さみしいよねー、僕らも、彼女もさ」
周囲を取り巻く機械の駆動音とそこかしこで寝ている人々の寝息が聞こえてくる静かな管制室で、招かれざる客二人は寝ている人など意に介せず会話をしていた。と云うよりも片方が何かを話す度に、もう片方が何やら様々な思いを込めた視線を送るということをしているのだが。
みてくれに反してやや幼い物言いをするよく喋るほうの少年は、中途半端な長さで顔に落ちてくる髪を片手で押さえながら、寝ている職員を押しのけてコンソールを慣れた手つきで操作していく。数枚のウインドウを経た後に、目的の操作を見つけ実行した。
視線のみで意思を表わしていたもう片方はこういうことには疎いらしく、少年の横で作業をじっと見ている。
「これで終わり。あー簡単」
ため息のようなものを吐き出しながら、少年は手近にあった空いた椅子にどっかりと腰を掛ける。
「みんなは大丈夫かな?って、ぼくらが心配することなんてないか…」
「……。」
「今日明日はこれでぼくらの仕事終わりだもんね、ほぼ。こんなことなら送電塔一本破壊したほうがよかったかもね。どうせ結果は同じだし」
「…、……。」
相方の視線が急に厳しいものになり、ぎょっとする少年。じょ、冗談だよと慌てて発言を訂正した。
「まったく…『シン』ってクソ真面目だよね」
ぼそりと言われた一言に、シンは視線で応えることはなかった。少年からは視線を外し、理解しているのかいないのか判らないモニターを見ながら、こげ茶のしっぽを一回振った。